コラム

新年のご挨拶

明けましておめでとうございます。
 本認証機構も今年の6月で発足後3年となります。ようやく諸般の運営も軌道に乗りつつありますが、これもひとえに多くのご理解ある皆様のご支援の賜物と深く感謝しております。
 昨年は、東邦大学薬学部、薬剤師あゆみの会、および共立薬科大学の3機関を薬剤師生涯研修プロバイダーとして認証することが出来ました。また認証申請に当たり参照していただくための認証の手順、認証申請の指針、および評価基準チェックリストも分かりやすく改訂し、ホームページ上でお知らせいたしました。申請時のみならず研修・認定の実施機関の自己評価にもご活用いただけると思います。
 もとより認証(accredit)は、薬剤師の研修・認定制度の実施母体からの申請に基づき、その目的・構想や制度運営の計画・内容について評価し、基準に適合すると認められればそれを公表して、薬剤師に質の高い自己学習の機会を提供することを目的としています。
 医療の高度化と社会ニーズの広がりを受け、薬剤師業務に対する信頼を高める必須条件として薬剤師の生涯研修の必要度はますます増大しますが、信頼は研修の質的な保証無しには得られません。私共は当機構による認証の意義の重要性を認識し、目的達成のために最大限の努力をする所存でおります。なにとぞこれまでにも増しての皆様方のご指導、ご支援をお願い申し上げます。

平成19年1月1日

有限責任中間法人 薬剤師認定制度認証機構
理事長 内山 充

CPDとは?どうすればCPDになるか?

生涯学習はCEからCPDへと変化

 薬剤師の生涯学習は先進諸国では早くから励行され、その内容や方法について多くの改善がなされていますが、最近、欧米各国では薬剤師の生涯学習に関して、これまで行われてきたCE(Continuing Education、生涯研修)の考え方を、受動的でなく能動的でしかも個々の薬剤師業務に適する研修を目指すCPD(Continuing Professional Development、生涯を通じた職能開発)に変えようとする動きが活発です。CPDとは、2002年9月のFIPにおける定義によれば「個々の薬剤師が、専門職としての能力・適性を常に確保するために、生涯を通じて知識、技術、態度を計画的に維持、発展、拡充するという責任行為」です

どうすればCPDか

 CPDは難しいものではありません。具体的にCPDの過程は、自己査定計画立案実行事後評価自己反映のサイクルとされています。教育は与えられる場面が多いですが、本来知識技能は自ら獲得するべきものです。すなわち個人個人の仕事や関心にしたがい、学習に必要なものを自己判断し、それを達成するために研修を自分で立案、実行、記録、評価するというものです。「何をすればよいのか」「誰か教えてくれないか」というようなパターナリズムを脱して、あくまでも自己責任により行われるものだということです。 「生涯研修の指標項目」などを参考に、「今年はこれとこれを学んで、この領域での能力を上げよう」と自分で計画を立てて学習機会を探して参加すればよいのです。学習は研修会(講義)ばかりとは限りません。テキストでも、テレビでも、インターネットでも、あるいは仲間と語らって勉強会を作るのも良いと思います。学習した後で、「評価表」などを用いて記録・評価を試み、それを次の計画に生かすことも大切です。

アメリカACPEの考え方

 ACPEが2003年に採択したステートメントによれば、「ACPEはCPDの概念が適切な教育原理の上に構築され、それにより薬剤師の生涯教育の全体的な効果及び結果を向上させることができると考えている。すなわち、薬剤師のための認証された生涯教育という既存の強力な基礎の上に構築され、生涯教育の現行システムのさらなる質的改善を行う機会を提供すると考えている」とのことです。そして現在、アメリカ国内でのCPDモデル採択のために、国内外での経験や、付随する課題等について活発に討議検討をしています。

アメリカの薬剤師認定制度の現状

米国の生涯研修制度について

CCP白書 (Credentialig in Pharmacy-September2003)からの引用


[解 説]
上図のうちPostgraduate Educationは大学あるいは大学院における学位取得コースであり、それ以下のPostgraduate TrainingとCertificationがいわゆる生涯学習に当たる。

Postgraduate training(卒後研修):薬剤師職能の維持・向上 学習成果の証明
① Continuing education 生涯研修(継続教育単位取得)
② Certificate program 特定領域研修認定 
③ Traineeship 特定領域学習認定(主としてLiveの講義・実習)
④ Residency 実務の付加的研修
⑤ Fellowship 研究能力の養成
Certification(専門薬剤師認定):特定業務に関する専門能力の保証

 Continuing educationは、継続教育と呼ぶより生涯研修と呼ぶほうが内容の実態を良く表している。薬剤師免許の更新に必要な、いわば義務化されたレベルの学習であり、ACPEによって認証された400ほどの研修実施機関(プロバイダー)によって行われている。その中で、課題を絞って一定のシラバスに沿って、まとまった期間行われる特定領域の研修がCertificate programである。ともに、講義、遠隔研修、e-ラーニング、自習と学習形態は多様である。Traineeshipは、レベルはCertificate programと同等であるが、継続した数日ないし数週間、特定の場所で行われる研修で参加者を選考することが多い。
 さらに深く能力を向上させるための長期の学習としてのResidencyは1年間以上の実務の研修でASHP, APhAが研修場所のマッチングを行い、通常給与の40%程度が支給される。Fellowshipは研究活動の能力養成のための研修で、多くはResidencyを終えた後に2年間以上かけて学ぶ。給与は④とほぼ同じ程度である。
 Certification制度は、BPSが行っている5種類(放射薬学、栄養管理、腫瘍、薬物療法、精神神経)の専門領域と、CCGPによる高齢者ケア領域について、能力の保証をする制度である。NISCPの疾病管理(糖尿病、喘息、血中脂質、抗凝血)もこの部類に入る。

※ なお機関名の和訳は仮訳です

期待にこたえられることを保証する「薬剤師認定制度認証機構」

(財)日本薬剤師研修センター 巻頭言 2004年10月

期待にこたえられることを保証する「薬剤師認定制度認証機構」

薬剤師認定制度認証機構理事長 内山 充

 去る5月14日に「学校教育法の一部を改正する法律」が、さらに今国会の会期最終日の一日前である6月15日に「薬剤師法の一部を改正する法律」が成立して、薬剤師及び薬学教育関係者にとって長年の懸案事項であった薬剤師養成教育の6年制が決まりました。

 自分は世の中から期待されているだろうか、ということを考えたことがありますか。世の中といわずとも、職場でも家族にも期待されているかどうかは、われわれにとっては重大問題です。期待されていると思えばこそ、その期待にこたえようと努力をするし、できたことを知ってもらいたくもなるでしょう。また、これでいいのかと常に自省して改善する努力もするようになります。

その代わり、期待されているだけに何かと批判にさらされたり注文がつくことも多いでしょう。だからなまじ期待されないほうが良いという気になるかもしれません。しかし、期待されなければ努力や改善の意欲は湧かず、成果もなく、批判されない代わりに存在価値もないこととなります。期待に伴う批判や注文はすべて自己発展の支えとなり駆動力となるはずです。期待されることはありがたいことです。しかし期待されていてもそれに気がつかなければ発展の力とはなりません。

薬学教育の6年制実現は、薬剤師に対する期待の高まりをきっかけとしています。薬剤師が生涯にわたり職能の向上に努めて患者主体の医療に貢献し、さらには特定領域の医療に役立つ専門薬剤師の能力を身につけることが、世間からの大きな期待となってきました。薬剤師はそれをしっかりと認識しなければなりません。それは同時に世間に対する薬剤師の義務にもなるのです。しかし反面、「学習して優れた職能を身につけたとか専門領域で医療に貢献できると言っても、誰が一体保証するの?」という声も聞こえてきます。

 薬剤師にとってこの数年間は薬剤師の存立をかけた重大な時期といえるでしょう。生涯研修認定や専門薬剤師の認定を通じて期待にこたえる努力をしていることを具体的に示すことができれば将来への展望が開けます。しかしそれがいい加減だったり見てくればかりだったりしたら薬剤師に対する信用は一気に落ちてしまいます。

 生涯研修や専門薬剤師の認定がしっかりした基準に適合する内容と水準であることを客観的に保証するのが、新しく発足した「有限責任中間法人薬剤師認定制度認証機構」の役割なのです。薬剤師の将来を左右することにもなりかねないという意味で責任の重さを感じています。

評価社会におけるCredentialsの活用-法改正を生かすために-

(財)日本薬剤師研修センター 巻頭言 2004年6月

評価社会におけるCredentialsの活用
---法改正を生かすために---

理事長   内山 充

学校教育法と薬剤師法の改正が実現する。昭和24年に薬剤師の免許取得に国家試験が課せられたと同じくらいの画期的変革といえよう。しかし、法規の改正ですべてが終ったわけではない。変革の本来の目的は、薬剤師全体を、処方せん調剤や医薬品管理や患者の安全確保に適切に対処し、さらにチーム医療に貢献し、薬物療法の開発推進に寄与できるような薬剤師にすることにある。教育年限や受験資格が変わっても本来の目的が達成できなければ画竜点睛を欠くことになる。

残された緊急かつ重要な課題は、第1に旧来の教育を受けた既存の薬剤師のレベルアップである。自らの習得した大学教育を不十分と言い切って長い間教育改革を熱望した以上、このままでは世間に安心して信頼してはもらえない。患者ニーズに応えられる専門職として、日常の業務に自信を持てるまでの資質を身につける意欲を持って生涯学習に励み、その客観的な証明として認定証を取り、それをもって世の中の人たちにアピールする必要がある。生涯学習と認定取得を義務化すべき時期が到来したと思われる。

第2には、教育制度上の改正が実質的な大学教育内容の改善になっていることの確認である。平成18年度から6年教育の体制がスタートするが、1年次の教育から新たな認識と方略が実施されなければ受験資格に見合う教育とはいえないから、大学はそれを、学内外に透明性をもってアピールし評価を受ける必要がある。一方、最近新しい薬科大学が多数開校し競争原理の導入としては歓迎されるが、しかし、安易な考えで開校したものであれば特に厳正な評価が必要となろう。薬科大学に対する第三者評価機関を一日も早く実質的に立ち上げる必要がある。大学経営者の薬剤師教育に対する取り組みの意欲、カリキュラムの狙いと独自性、実務実習の指導者および施設の状況など、大学のステータスを示す重要なファクターについて望ましい水準を満たさずに薬剤師教育ができるなどと考えてはならない。

第3に、薬剤師の医療職としてのアイデンティティ確立である。医療技術と薬物療法の進歩や、疾病構造の変化と高齢社会化に伴い、薬剤師がチームの一員として患者中心の医療に参画することが求められるようになってきた。薬剤師参加のメリットとして患者の安全と薬物治療の効果を増し、さらに薬物の絡む医療過誤を防ぐことが期待される。そのために、たとえばがん化学療法などの特定の領域で他の医療職の期待に応えられるような専門薬剤師の養成と、その職能を客観的に評価して保証する制度が必要である。

このように薬剤師の新時代を迎えて、いろいろな場面で適切な評価体制が整備されることとなろう。個人も組織も団体も進んで客観的評価を受け、得られた認証(Credentials)を、知の世紀といわれる21世紀におけるパスポートとして活用し、医療職の一員として知識社会の発展に貢献し、かつ自らも多くを学び取るよう努めたいものである。

CPDのための指標項目と評価表

(財)日本薬剤師研修センター 巻頭言 2003年11月

CPDのための指標項目と評価表

理事長 内山 充

 去る9月18日から4日間、シアトルでACPE(アメリカ薬学教育協議会)主催により、第10回薬学生涯教育コンファレンス(Conference on Continuing Pharmaceutical Education)が開かれた。医療を志向した高度な薬剤師教育を実施しているアメリカでも、薬剤師の業務を遂行するためには生涯教育を欠かすことはできないということで、隔年、生涯教育実施機関(ACPEにより承認を受けている機関)とACPEが、より良い方法をめぐって討議するために行うコンファレンスである。これに日本から参加した若手病院薬剤師から幾つか情報がもたらされた。

 ここ数年来、欧米の薬剤師生涯学習の方向が、受動的でなく能動的で、しかも個々の薬剤師業務に適する研修を目指して、Continuing Education(生涯教育)からContinuing Professional Development(生涯職能開発、専門性の向上)へと移っていることは良く知られている。CPDとは、2002年9月のFIPにおける定義によれば「個々の薬剤師が、専門職としての能力・適性を常に確保するために、生涯を通じて知識、技術、態度を計画的に維持、発展、拡充するという責任行為」である。

 そして、具体的にCPDの過程は、自己査定⇒計画立案⇒実行⇒内容記録⇒自己評価 である。すなわち個人個人に必要なものを自己判断しそれを達成するために研修を自分で立案、実行、記録、評価するというものであり、あくまでも自己責任により行われるものだという。

 国際学会などでの討議から見ると、生涯学習の評価には試験などによる外部評価も可能であるが、あくまでも基本は自己評価であり、Subject(研修会主体と内容の)評価、Object(研修の客体すなわち受講者の理解度等)評価、及びImpact/Outcome(影響と効果の)評価から成り立つという。

 これらから見ると、当薬剤師研修センターが平成8年以来普及に努めている「生涯研修の指標項目」は、多様化した薬剤師業務の中での自己診断と学習立案に最適であり、平成12年以降研修会ごとに参加者に配布している「評価表」は、研修会内容と受講者の学習結果を受講者自身が評価するものであるので、両者ともCPDのためにまさに正鵠を得ていたのだと大きな安堵感を覚える。

 ACPEの責任者が上記「生涯研修の指標項目」を見て、アメリカにもない優れたものであるので導入を考えたいと言ったということであり、これも嬉しい知らせであった。両者とも当センターホームページに掲載してあるので是非活用をお願いしたい。

薬剤師の認証制度について

(財)日本薬剤師研修センター 巻頭言 2003年2月

薬剤師の認証制度について

前号に続き本号では、認証制度の整備について紹介したい。われわれは近い将来、薬剤師の卒後教育に関連する各団体の参加を得て、「薬剤師認証制度協議会」(Council on Pharmaceutical Credentials, CPC)の設立を提案したいと考えている。
これは、免許取得後の薬剤師が自ら積極的に習得した能力・適性(Competence)を、客観的に証明するための認証制度の運営を適切に行い、相互の調整を図り、評価を行うための機関である。
わが国では現在、当センターの「研修認定薬剤師制度」のほか、薬剤師の自己研鑽に対して幾つかの認定、証明、あるいは称号の給付などがなされ、また計画されている。薬剤師の生涯研修を充実し資質を向上するという目的を達成するためには、薬剤師に関する個々の認証・認定制度を自然発生に任せてそれらの事後調整を図るという方策よりも、予め各種の認証制度についての位置づけ、目的、内容に関して、薬剤師全体の合意を形成しておく必要が生じてきたというのが、この提案の理由である。
薬剤師には、薬学の専門職能を行う資格として薬剤師免許が与えられている。免許は終身制であり、免許更新のために研修などを受けることが法規で義務化されているわけではないとはいえ、薬剤師が、医療の担い手としての能力・適性を常に維持することは、患者、医療従事者あるいは世間一般に対する義務といえる。
故に、変化の激しい薬学専門領域に携わる薬剤師にとって、免許取得後の生涯にわたる継続的な学習は必須となろう。そのために薬剤師は、それぞれの目標に合致し条件に適合した研修等を選び自己研鑚に励むべきである。そして、自らの業務の質を保証して客観的信頼を得るためには、単に自己研鑽を積むことのみに終わらず、その成果を証書(Credentials)として示すことが必要となる。そのための制度整備の提案である。
免許取得後の薬剤師に対して行われる認証制度(大学院の学位授与制度は含まない)を、目的と内容にしたがって分類すると次のようになると考えられる。

  1. 生涯研修制度:免許更新に代わる自己学習成果を認証するもので、全認証制度の基盤である。一般課題を個人の計画に基づいて行うものと、特定の課題について一定の計画に従って行うものとがある。
  2. 専門薬剤師制度:薬剤師の専門職能の中の特別の領域における習熟を認証するもの。
  3. 薬剤師顕彰制度:勤務経験や業務・研究に関する実績を認証するもの。

それぞれの制度は、一定の基準に適合する組織により運営される必要がある。また、名称はいずれも仮称であり、今後衆知を集めて最終的名称としたい。
 わが国の薬剤師の認証制度について、今後上記のように考え方を整理し対応することにより、認証制度全体をより効果的に発展させることができると考える。
平成15年2月 理事長  内山充

薬剤師への証書-クレデンシャル-の整備

(2001年3月)

薬剤師への証書-クレデンシャル-の整備

(財)日本薬剤師研修センター
理事長 内 山 充

 薬剤師は、個人個人が薬学という専門職能を実践する資格を有し、したがって患者あるいは他の医療従事者さらには社会全体にとって価値ある存在であることを自任しているが、それを証明して信頼を得るためには、薬剤師が各種の所要条件を満たしていることを示す証書(Credential)が必要である。
 特に最近は、医療分野の変化が急速でますます複雑となり、また薬剤師が果たす臨床的な役割が大きくなってきているとともに薬剤師が専門化したケアを提供する能力を備える必要が増して来ている。このように変化し複雑化する領域では、生涯にわたって適格な能力を維持することとその証明が求められる。
  薬剤師は日本に限らず諸外国でも、薬学の実務に必要な教育課程を修了して学位を取得し、就業開始のための試験に合格して免許を取得する。ここまでのCredentialすなわち卒業証書と免許証は明白だが、その後各自が自発的に取得する高度な知識や能力を認知する証書についてはいろいろな言葉が使われ、それの発行は各国とも各種の公的および私的の学術あるいは職能の団体が関与して行われている。
わが国では現在、免許取得後の薬剤師に対するCredentialとしては、当センターが関与する認定薬剤師(一般研修)証、実務研修修了証、CRC研修修了証、漢方薬・生薬認定(生薬学会と協力)証のほか、日本病院薬剤師会認定(実施は各都道府県病薬)証、日本医療薬学会認定証、および日本臨床薬理学会認定証がある。
アメリカでは古くから多くのCredentialが交付されてきたが、今後薬剤師が各種の医療サービスを行うに当たり資格を持っていることの確認に必要となると思われるCredentialについての共通理解を確立するために、薬学実務関係11団体の連合体として1999年の秋にCouncil on Credentialing in Pharmacy(CCP)が設立され、2000年9月に「薬学領域におけるCredentialing」という白書が公表された。日本の今後の体制整備にも大いに参考となる。内容は順次ご紹介したいが、日本でも個々の制度の相互調整よりも、全体としての薬剤師認定制度協議会(仮称)を組織する必要性を痛感している。

薬剤師の認定制度の整備に向けて(1)

(2001年4月)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(1)
-アメリカの称号制度との対比から-

(財)日本薬剤師研修センター
理事長 内 山 充

 薬剤師の能力・適性を生涯にわたり維持して、業務の質を保証するために、我が国は勿論のことどの国においても、生涯を通じて薬剤師の色々な学習に対して資格や、証明書、認定証などが発給されている。
 1999年に、アメリカにおいてCCP(Council on Credentialing in Pharmacy, 薬学称号制度協議会)が設立され、その後CCPより、薬学の卒前教育から薬剤師の生涯研修までを含めて、アメリカで現在使われている各種の称号を分類整理した「白書」が2000年9月に公表されたことは、本ニュースの前号で触れたが、本号より順次その内容を紹介しながら、わが国の薬剤師に関連する制度や称号の位置づけを考えたい。
 別紙の図(pdfファイル)は「白書」の内容をまとめたものである。この図はアメリカの現状を表しているが、基本の段階構成はわが国も同じといえる。ただし条件や運用には大きく異なるところがある。本号では大筋で日米を対比して、わが国の認定制度の意味付けをしたい。各項目の詳細は必要に応じて次号以降に紹介する。
 教育段階としては、アメリカでは薬剤師免許の受験資格が、昨年6月からPharmD取得者すなわち基礎薬学2年間+専門薬学4年間の6年修了者のみとなった。受験資格と関係なく薬学研究者としての修士、博士の課程は勿論存続している。
 実務参入段階の薬剤師免許は、アメリカは州の資格、我が国は国家資格である。
 免許取得後の生涯にわたる就業中の研修に対する称号については、図のように4種類に分かりやすく分類されている。我が国の現行の制度もそれぞれに分類される。

  1. Additional Training(付加研修)は、特定のプログラムを持つ研修課程を修了したものに与えられる認定である。アメリカでは表中に示すようにいろいろな団体がこれを行っている。我が国では、当研修センターが行っている「厚生労働省薬剤師実務研修事業」がResidencyに当たる。国立大学病院の卒後研修はプログラムが基準化されればこれに近い。当センターの「治験コーデイネーター養成研修」はTraineeshipに当たる。
  2. Certification(証明)は、特定のカリキュラムを履修して試問や試験に合格した人に与えられる認定である。特定の疾病や薬学的ケアあるいは専門分野や診療科などを対象に専門薬剤師を養成するコースが含まれ、大いにわれわれの参考になる。ここには当センターの「漢方薬・生薬研修会」が該当する。今後、需要の多い分野を対象に我が国でもさらに計画を広げたい。また、当センターばかりでなくしっかりとした基盤を持つ学会や団体の意欲的な企画も期待したい。
  3. Peer Recognition(ピア認証)は、経歴や実績に基づいた仲間内の認証制度であり、アメリカで代表的な薬剤師団体や大学協会等がステータスの高いフェローとして認定している。我が国では、現行の手続きの上では医療薬学会の認定制度、臨床薬理学会の認定制度がこれに該当する手続きである。
  4. Continuing Education(生涯研修) 多くの実施機関により提供される研修の中から免許更新に必要な一定の研修単位を取るために自己選択で研修を受ける。その中で、短い一定期間で特定の知識・技能を育成するために行われるものをCertificate Programという。いずれも研修実施機関はACPEによる認証を必要とする。わが国では、当センターの「研修認定薬剤師制度」および日本病院薬剤師会の認定制度が、免許更新と同じ効果を期待して、能力や適性の維持に役立つようにと設けた制度であり、前者の一般生涯研修である。

薬剤師の認定制度の整備に向けて(2)

(2001年5月)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(2)

(財)日本薬剤師研修センター
理事長 内 山 充

 前号でアメリカにおける薬剤師の認定制度の全体像を紹介し、大まかにわが国との対比を行なったが、本号より、医療実務に従事している薬剤師に対する認定や称号についてやや詳しく紹介する。これは単にアメリカの状況を知るのが目的ではなく、わが国で今日まで続けられている薬剤師に対する諸認定制度を見直して、今後日本における薬剤師の研修と認定制度をどのように充実し整備すべきかを考察するのが目的である。
 より分かり易くするために、前号に載せたまとめの表と略号の一覧を再掲する。略号については前号に挙げた英文フルネームの代わりにそれぞれのホームページURLを記載したので活用して頂きたい。これらのホームページは当センターのホームページからのリンクにより開くことも出来る。
 まず現在の日本で最も普及している生涯研修(表中の④)から話題とする。

生涯研修(Continuing Education)とACPE

 アメリカの薬剤師事情に詳しい人たちが一様に持つ感想として、アメリカでは、個人レベルでの勉学意欲が非常に高く、常に厳しい競争の中で自分を磨こうとする意識が強いという。薬剤師としての適性と能力をより高めることで、職場においても、患者からも、医療従事者からも存在意義を認められようと努力を怠らないといわれる。
わが国は、日常の仕事の範囲内で努力をする人たちは多いが、それは年功序列や、年の功といわれる経験の蓄積の域を出ないのではなかろうか。生涯学習社会に求められている生涯研修は、OJT(職場でのトレーニング)ではなく、それを超えるものであり、それによって自己も職場も新しく、進んだものにならなければならない。
 アメリカでは薬剤師免許の更新を受けるために2年ごとに一定の(州により異なるが年間10~15時間程度の)生涯研修単位を取る必要がある。一方、わが国の免許は終身制であるので更新のために研修単位を取る義務はない。しかし、薬剤師としての水準がアメリカに比して劣っても良いということも決してない。専門職能を通じて患者や他の医療従事者あるいは社会全体にとって価値ある存在になるために、生涯にわたり自分の適性や能力を維持向上させる研修に励み、その客観的証明のための認定や称号を取得することが必要であることはアメリカと何らの違いもない筈である。
 アメリカでの免許更新のための生涯研修は、ACPEの承認した実施機関(プロバイダー)の行なう研修に限られ、現在薬系大学、関連学会、職域団体、及び製薬企業など380ほどの団体がプロバイダーとして承認されている。プロバイダーのリストはACPEのホームページで見ることが出来るが、年々十数か所が増加しつつあるという。

ACPEとは

 ACPEは独立の自主団体で卒前教育と生涯教育の認証機関である。1932年に発足しているがAACP、APhA、NABPからそれぞれ3名ずつと薬系以外の教育者代表1名を加えて理事会を構成している。1932年以来、文部省の認知を受けてアメリカの全薬科大学を対象に、各州の薬剤師免許受験の資格としての卒前教育(学部卒とPharm D)課程の認可を行なっている。2001年よりアメリカでは薬剤師試験の受験資格がPharm D卒業者に限られることとなったので、現在は卒前教育課程の認可はPharm Dコースのみである。
 免許取得後の更新に必要な生涯研修のプロバイダーの承認は1975年から開始された。プロバイダーの承認も大学教育課程の認可もいずれも厳密な基準により審査されている。両者とも6年ごとに更新が行なわれるが、更新時には現場視察も含む入念な審査が行なわれている。

研修の質の確保

 ACPEが生涯研修に関して行なっている承認は、実施機関としてのプロバイダーに対してであって個々の研修計画ではない。実施機関の組織、財政および知識・技術的基盤のレベルを揃えることで研修の質を確保している。わが国における当センターの認定制度では、現在全国で約1500箇所の集合研修実施機関があるが、それらは当センターが組織としての妥当な水準を確認した上で登録したものである。個々の研修計画については、これも当センターで内容を承認して単位を発給することにより質の確保に努めている。
 わが国においても、有力な大学の卒後教育システム、学術団体の学会や研修計画、地域あるいは職域団体の計画する組織的研修など、内容背景ともに十分自立しているものが少なくない。今後の課題として、研修認定薬剤師制度の中でそれらの団体を特別の研修実施機関として認定する基準を策定し、適合する実施機関には自主的に単位の発給を認め、必要単位に達したという証明に基づいて当センターから認定薬剤師証をお送りするような方法も検討している。

生涯研修の種類

 研修の単位を、研修会への出席のほか、学術雑誌の論文学習、テレビやラジオあるいはインターネットを利用した在宅研修、その他の自己学習課程により取得できるのはわが国の現状とほぼ等しい。
 アメリカの一般生涯研修の中で、特定の比較的狭い分野について特に薬剤師実務に役立つようにと計画される課程をCertificate Program(CP)と呼んでいる。これは表中の①、②などの課程に比して小規模かつ短期間であり、薬系の団体や大学が自身の集会に合わせて開講することが多いという。これの内容もACPEにより承認される。たとえば、APhAは喘息、糖尿病、免疫付与、血中脂質異常症という分野でCP課程を設置している。

薬剤師の認定制度の整備に向けて(3)

(2001年6月)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(3)

(財)日本薬剤師研修センター
理事長 内 山 充

 現在わが国で行なわれている薬剤師に対する認定制度はさほど多くはないが、流動性の活発な競争社会への変化が予測される今世紀には、薬剤師の業務に関連する新しい観点からのさまざまな認定制度が生まれると思われ、歓迎すべきことである。しかしそれは無秩序な乱立であってはならず、目的、体制、内容等から見て薬剤師の生涯にわたり適性・能力を維持し保証するのに役立つものでなくてはならない。
 アメリカでは、かなり古くからさまざまな認定制度が多くの薬学関連団体の責任のもとで展開されているが、わが国における薬剤師の認定制度が秩序ある発展をするためには、計画段階から認定制度の種類や性格による類別をはっきりと理解し、具備すべき条件を認識しておくことが必要である。そのための参考として、引き続き、アメリカCCP(薬学称号制度協議会)による現行のアメリカにおける認定制度の類別を紹介しつつ、わが国の薬剤師認定制度の今後の整備を考察したい。理解の助けとして今回も、前号までに載せたまとめの表を再掲する。略号一覧は今回は省略するが文中で説明する。前号では、まとめの表中の④について説明したので、次いで①~③を取り上げる。

①~③の類別

まず①と②は、受講者が意識的に選んだ特定の課程あるいは課題に関して研修を受けるか自己学習を行い、それに対して与えられる認定である。③はそうではなく、主として自らの職域で業務として行なった業績あるいは経験に対して与えられる認定あるいは称号である。 ①と②を大まかに区別すれば、①は、長期の研修課程のプログラムを修了して、その分野での知識と技能が備わった薬剤師を認定する制度であり、②は、ある特定の比較的狭い薬学実務領域で、あるレベル以上の能力と適性を持ったことを試験などにより確かめて証明する認定である。前にも述べたが、わが国でいえば、①には当研修センターが行なっている厚生労働省の実務研修制度や、同じく厚生労働省の治験コーデイネータ(CRC)養成研修が相当し、②には、日本生薬学会と当研修センターの共同で行なわれている漢方薬・生薬研修が分類される。①②のような特殊な目標を定めた研修の認定は、④の一般生涯研修とは分けて考えるのが妥当のようであり、アメリカでも免許更新のための生涯研修とは区別している。当研修センターの認定制度においても、特定の目的を持ちそれに独立に認定あるいは修了証が発給されるものについては、研修認定薬剤師制度の単位は発給していない。 ③に分類される業績や経験に対する認定も同じく④とは区別される。したがって、OJTや論文発表や学会講演は、わが国における医療薬学会や臨床薬理学会のような③に該当する認定の対象にはなっても、④に当たる当センターの認定制度の単位の対象とはならない。

①付加研修*課程修了の認定(Additional Training)

①に属する3種の認定はいずれも長期間にわたり特定のプログラムあるいはガイドラインに沿って行なわれる研修である。
Residencies:わが国でもレジデントの呼び吊は親しまれている。アメリカのResidencyは1~2年の課程であり、研修場所は大学病院、地域薬局その他の薬学実務環境(保険医療団体、在宅健康管理機関等)である。ファーマシュテイカルケア全般の研修が行なわれるが、時には外来ケアといった特定の実務が集中的に行なわれることもあり、またある特定の課題たとえば薬物動態学、特殊な患者集団たとえば小児科学、もしくは特殊な疾患領域たとえば腫瘊学に関する専門研修を受けることもある。アメリカではresidency研修計画の認証はASHP(米国医療薬剤師会)が単独あるいは他の薬系団体と共同で行なっている。2000年9月現在、全米で、病院、薬局、団体等の行なう505課程がASHPから認証を取得している。わが国では現在、当研修センターが行なっている厚生労働省の実務研修が、一定のプログラムに沿った1年間(病院と薬局のいずれかを10ヶ月、他を2ヶ月)の研修として行なわれている。従来からある国立大学病院での卒後の研修も、期間とプログラムの条件が揃えばこれに該当する。遠からずわが国では、医師と同様に薬剤師についても卒後の研修が義務化される趨勢にあり、それまでの過渡期をしては現在の体制をそのまま維持して強化して行くことになろう。
Traineeship:アメリカでは、種々の慢性疾患および病態を有する患者を、高いレベルでケアする際に必要とされている知識および技能を教育することを意図して行なわれる長期間(おおむね2年以上)の卒後教育と定義されている。現在traineeshipを設置している薬系団体としては、ACA(米国薬剤師会)、ASCP(米国顧問薬剤師協会)およびASHPがある。薬剤師職能の中の特殊な分野での専門職の養成課程と解釈することができるので、当研修センターが実施している厚生労働省のCRC養成研修は、フォローアップ研修までを含めてtraineeshipに当たる研修課程に育ってほしいと考えている。
Fellowship:個人を対象とする1~2年にわたる卒後の課程で、これを修了すると独立した研究者になるという。主として薬系大学や大学病院、時に製薬企業に設置されるというが、AACP(米国薬科大学協会)およびACCP(米国臨床薬学会)から、課程内容についてのガイドラインが出されている。わが国でいえば医療薬学の選考過程に似たものと思われる。

(次号に続く)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(4)

(2001年7月)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(4)

(財)日本薬剤師研修センター
理事長 内 山 充

前号では長期の付加研修の修了に基づく認定を説明したが、本号では試験による能力・適性の認定について考えたい(添付図の②参照)。

②証明*履修と試験合格の認定(Certification)

ある特定の比較的狭い薬学実務領域で、あるレベル以上の能力と適性(competence)を持っていることを試験により確かめて証明するという種類の認定である。特定の座学や実習の研修会に参加してもよし、テレビやインターネット等による遠隔研修でもよし、あるいは全く独自に学習してもよいが、一定の試験に合格した人に与えられる。
アメリカの実態を見ると、特定の疾病や薬学的ケアあるいは専門分野や診療科などを対象に専門薬剤師を認定する制度が幾つか設定されている。我が国の薬剤師についても今後展開を期待したい種類の認定制度である。現在では当センターの「漢方薬・生薬研修《が該当するが、今後、需要の多い分野を対象にさらに計画を広げたいと考えており、しっかりとした基盤と活動能力を持つ専門学会や団体の意欲的な企画や提案を期待している。
制度の具備すべき条件
この種の認定制度を立ち上げる場合には、実施に責任を持つ機関や団体が、選ぼうとする課題や領域の専門家グループを組織し、薬剤師実務領域での重要性や要望度及び問題点を検討して、認定の領域と目的を明確にする。多くの場合アンケート調査などが行なわれる。その結果に基づき、履修すべきカリキュラムの内容を設定する。ついでその履修成果を実証するための試問や試験の関連事項を定める。履修の方法(座学、遠隔、独学)に関わらず判定基準は一律とする。上記「漢方薬・生薬研修《はこのような手順を踏んで行なわれている。アメリカでもほぼ同様の手続きが取られている。
アメリカでこの種の認定を薬剤師対象に行なっている機関は、現在のところ次の3つである。

1.BPS(Board of Pharmaceutical Specialties、薬学専門職委員会)

BPSは1976年にAPhA(米国薬剤師会)によって設立され、薬剤師実務領域での専門職の認定証を交付している唯一の機関である。下記の5つの専門業務分野について、2000年1月現在で約3000吊の薬剤師がBPS認定証を受けており、吊前はWeb上で公開されている。
原子核薬学(Nuclear Pharmacy)・・・444吊
栄養補助薬学(Nutrition Support Pharmacy)・・・451吊
腫瘊薬学(Oncology Pharmacy)・・・184吊
薬物療法(Pharmacotherapy)・・・1546吊
精神疾患薬学(Psychiatric Pharmacy)・・・311吊
この認定は7年毎に更新を受けなければならない。
専門分野の設定は、専門領域の機関からの申請に基づきBPS運営委員会で行なう。運営委員会は9吊(薬剤師6、他の医療専門職2、一般1)で構成されている。各専門分野には評議会(専門の薬剤師6吊、専門以外の薬剤師3吊)があり、認定手続き、試験内容、更新条件等を定めている。試験はアメリカの国内外約25ヵ所で年1回行なわれる。
1997年から、専門分野のさらに限定された領域での証明制度が導入された。Added Qualification と呼ばれる。BPS認定の所有者に対して経歴や実績の審査により追加で交付される。薬物療法専門分野の中の感染症疾患が最初の例である。

2.CCGP(Commission for Certification in Geriatric Pharmacy、老年病専門薬剤師認定委員会)

 CCGPは、高齢者向け薬剤師実務の認定を行なうために、1997年にASCP(米国顧問薬剤師協会)から分かれた独立の法人である。委員9吊の構成は薬剤師5吊、医師1吊、支払・雇用者1吊、一般消費者1吊及びASCP理事から1吊となっている。試験はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの多くの会場で年に2回実施されている。受験生用に刊行されているハンドブックに、この認定制度の説明、試験内容の概略、受験資格などが記載されている。2000年1月現在で約400吊が老人病専門薬剤師の称号を得ているが、5年ごとに筆記試験に合格して更新を受ける必要がある。

3.NISPC(National Institute for Standards in Pharmacist Credentialing、薬剤師認定基準研究会)

NISCPは、1998年にNABP(連邦薬事委員会連合)を中心に、APhA、NACDS(チェーンドラッグストア協会)及びNCPA(全国地域薬剤師会)の基金により設立された。その目的は、近年の薬剤師に求められる疾患管理(Disease State Management、DSM)サービスの能力を有する薬剤師を認定するためであり、NABPの行なう疾患専門試験の合格者にDSM認定証を発行する。
NABPは本来、アメリカ全土50州とDCのほか、グアム、プエルトリコ、バージン諸島、ニュージーランド、カナダ9州、オーストラリア4州の薬事委員会の連合体であり、薬剤師試験や免許交付の取りまとめを行なっている。
アメリカでは、薬剤師免許受験資格として、薬系大学の卒業資格のほかに、NAPLEX(学力試験)とMPJE(法規試験)に合格することが必要とされ、アメリカ全土50州の試験センターで年間を通じて試験が実施されているが、これらを開発し実施しているのがNABPである。免許受験資格等については後に項を改めて述べる。
さて、DSMとしてNISPCは現在、糖尿病、喘息、血中脂質異常及び抗凝血療法という4つの疾患管理について認定を行なっている。これらの疾患状態にある患者に薬学的ケアを提供する薬剤師の能力と適性を証書として示すためであり、業務報酬を受ける上で有利になる取り扱いがなされている州がある。2000年5月現在で、1089吊の薬剤師がNISCP認定を保持しており、Web上に吊前が公開されているが、内訳は次のとおりである。
糖尿病・・・653吊
喘息・・・227吊
血中脂質異常症・・・110吊
抗凝血療法・・・99吊
試験はコンピュータ試験として全国的に実施されており、年間を通じて受験可能である。

(次号に続く)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(5)

(2001年8月)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(5)

(財)日本薬剤師研修センター
理事長 内 山 充

②認定―経歴による仲間内の認証(Peer Recognition of Excellence)

前回までにわが国ならびにアメリカで現在行なわれている認定制度の3つの分類、すなわち、自らの計画による自発的な生涯学習の積み重ねを証する認定制度、特定の課程(プログラム)の修了を証する認定制度、一定の専門分野の知識技能を学習と試験合格によって証する認定制度について説明した。それぞれ付図の ④,①,② である。
これらのほかに、研修の積み重ね資格でもなし、課程の修了資格でもなし、試験の合格資格でもない認定がある。これが③のPeer Recognition of Excellenceである。
学会あるいは専門職団体が、所属会員の中で経歴や実績が一定の基準に達した人を顕彰する意味での認定である。
アメリカの例でいえば、ASHP(米国医療薬剤師会)、APhA(米国薬剤師会)、ACCP(米国臨床薬学会)といった薬学系の職域団体あるいは、AAAS(American Association of the Advancement of Science)、APS (Academy of Pharmaceutical Sciences)、AAPS (American Association of Pharmaceutical Scientists)などの学会が、専門職能に優れた所属メンバーに与える ”Fellow” という称号がこれに当たる。
たとえばASHPのFellowは、吊前の後にFASHPという称号を書くことを許されている。アメリカの薬剤師、研究者、大学教授等の履歴書の “Honors” の項には、必ずといって良いほどいくつかの団体のFellow が記載されているのが見られる。
わが国でも、学会認定の中にはこの種のものが多い。薬剤師に関しては、日本医療薬学会あるいは日本臨床薬理学会の認定薬剤師は、現状ではこの方式に分類される。なお、今年から日本臨床薬理学会の認定には試験が導入された。
専門職能への寄与が公に認知されるようにという目的で授与される称号であり、主として職務上の業績と経験が評価の対象となる。教育・研究者であれば学会発表や論文数が、臨床実務者であれば職務実績の範囲と年限や指導歴などである。主催団体が特別に催す会合への参加などが条件となっている場合もある。
他の3つの分類に属する認定が、特定の課題や目標を自ら設定して、積極的に機会と時間を作ってチャレンジする性質を持っているのに比べて、これは本来の専門職能の中での優れた実績に対して与えられるものであり、わが国の古くからの慣行にはなじみやすい制度だが、他とはやや趣を異にする。本来は団体や学会の選考委員会が、基準に照らして選んで授与するのが普通であるが、個人の自薦による応募のケースもある。限られた専門分野での寄与を世の多くの人たちに知ってもらうためには重要な役目を果たしている制度といえよう。

これまでの経過と今後の展望

 日本薬剤師研修センターが平成6年に「研修認定薬剤師制度」を発足させて以来すでに6年を経過し、その間、当初の認定薬剤師制度と並んで、薬剤師実務研修、CRC養成研修、漢方薬・生薬研修(日本生薬学会と共同)と、それぞれ異なる目的と条件を有する認定制度を次々とスタートさせた。これらが、薬剤師の認定制度の分類において何処に属するかは、これまでの筆者の連載(バックナンバーは当センターのホームページにある)のなかで触れている。
ところで、上記研修認定薬剤師制度の発足当初より、この制度にカリキュラムを作るべきであるとか、試験もなしでは質的保証ができないとかのご意見を頂いた。
しかし、薬剤師の研修は教育ではない。あくまでも主体は受講者にある。カリキュラムに類するものは、長期の付加研修あるいは特定領域での専門研修には必要だが、自発的自己学習で、いわば薬剤師免許の更新の代用とも考えられる認定薬剤師制度は、あくまでも個人の意志で生涯を通じて継続すべきものという観点から、当センターでは、一般の認定薬剤師制度の中ではカリキュラムを作っていない。その代わりに、自らの知識のレベルを自己診断し、生涯研修の必要度を測り、必要な研修計画を立てるための「指標項目《を平成8年に作成し、その後改訂をしつつ現在も常時提供している。
一方、カリキュラムや試験は、特殊な目的と性格を有する認定制度には必須である。当センターの行なっている薬剤師実務研修、CRC養成研修、漢方薬・生薬研修には、カリキュラム、プログラム、テキスト、試験、試問等が付帯している。
この種の専門薬剤師養成の認定制度は、将来さらに拡充する予定ではあるが、これらを当センターだけで行なうには限界がある。薬学系の専門学会、職域団体は、今後この種の認定研修制度を積極的に企画し実施して欲しい。その際には、しっかりとした計画とスタッフと評価組織が必要であるが、当センターは具体化について必要な協力は惜しまない積りである。

おわりに

これまでに数回にわたり薬剤師の認定制度を、実施目的と認定条件に基づいて分類し、アメリカと対比しつつわが国の現状と将来展望を説明してきた。
言うまでもなく薬剤師には、薬剤師としての知識、技能を常に維持し高めるために、生涯研修など自己研鑚の努力を続ける義務がある。これは日本もアメリカも変わりはない。先日送られてきたテネシー大学の生涯教育の案内プログラムにも ”He who graduated yesterday and stops learning today, will be uneducated tomorrow” 「昨日卒業して今日学ぶことを止めれば、明日は無学となる《という標語が書き添えてあった。
わが国の薬剤師の生涯研修は、今や他の医療職に比べ決して遜色がないほど活発となった。しかしその結果、薬剤師相互間に格差が目立つようになってきたことも否めない。優れた薬剤師の能力や実績を認知し証明するために、しかるべき認定や称号が用いられているが、これは今後、患者が薬剤師を選ぶ有力な指標となることであろう。
長年にわたり我々の生活に染み込んでいる長幼の序と終身雇用、あるいは「能ある鷹は爪を隠す《を美徳とする習慣から、証書や称号をひけらかすことを必ずしも潔しとしない空気も無いではない。しかし新世紀に入り、かねがね唱えられて来た変革がすべての分野に実際に起こりつつある今日では、薬剤師も自分の持つ特技と習得した知識を足場に、新しい社会構造の中で飛躍するために、職務の上でもあるいは他の社会活動においても、履歴書に書ける証書や称号をなるべく多く獲得し、それに伴う実力をもって、流動化する競争社会において存在意義を示さなければならない。